「洋楽愛好会」と銘打った企画なので、オールディーズな米国のヒットチャートについてあれこれ述べているのだが、今回は洋楽のみならず日本のオールディーズの話題を交えてビルボードを見ていくことにしたい。まずは1957年の米国トップ10と同時期の日本の年間シングルヒット曲売上ベスト10(注1)の比較から。
  (注1)「PRiVATE LiFE エンタメデータ&ランキング」より

 【米国
 1位「恋にしびれて」エルヴィス・プレスリー
 2位「砂に書いたラブレター」パット・ブーン
 3位「リトル・ダーリン」ダイヤモンズ
 4位「ヤング・ラブ」タブ・ハンター
 5位「ソゥ・レア」ジミー・ドーシー
 6位「ドント・フォービッド・ミー」パット・ブーン
 7位「シンギング・ザ・ブルース」ガイ・ミッチェル
 8位「ヤング・ラブ」ソニー・ジェームズ
 9位「トゥー・マッチ」エルヴィス・プレスリー
10位ペリー・コモ「ラウンド・アンド・ラウンド」

 【日本
 1位「有楽町で逢いましょう」フランク永井
 2位「港町十三番地」美空ひばり
 3位「東京だョおっ母さん」島倉千代子
 4位「チャンチキおけさ」三波春夫
 5位「俺は待ってるぜ」石原裕次郎
 6位「バナナ・ボート」浜村美智子
 7位「東京のバスガール」コロムビア・ローズ
 8位「青春サイクリング」小坂一也
 9位「あん時ゃどしゃ振り」春日八郎
10位「りんご花咲く故郷へ」三橋美智也

 わが国のベスト10のタイトルを見て、懐かしい思いにふける方もおられるかもしれない。文化はもとより、この当時の両国はなにもかもがまるで異なっていたので比較すること自体あまり意味がないのだが、それにしても日本では演歌を含めた歌謡曲が「ポピュラー音楽」であったことが分かる。

 特徴的なことは、米国のタイトル10曲全てが長調(メジャー)なのに、日本では3曲(2位、6位、8位)しかなく、他は全て短調(マイナー)な曲調であること。よく言われるように長調は明るい、楽しいという印象だが、短調は暗い、悲しいというイメージがある。明治初期に欧米から洋楽が紹介された頃は、日本でも明るい曲調が多かったと聞くが、少なくとも筆者が幼少の頃は圧倒的に短調(マイナー)な曲調のものが多かった。日本人の感性の特徴かどうかは分からないが、この後も短調の曲がはやる傾向は当分の間続いていくことになる。

 一方で、レコードの売り上げとは別に日本のラジオ放送各局でオンエアされた洋楽を集計した日本におけるトップ10のデータ(注2)を紹介してみたい。
  (注2)八木誠著「洋楽ヒットチャート大事典」より

 1位「エデンの東」ヴィクター・ヤング楽団
 2位「アイル・ビー・ホーム」パット・ブーン
 3位「霧のロンドン・ブリッジ」ジョー・スタッフォード
 4位「ママ・ギター」ドン・コーネル
 5位「OK牧場の決闘」フランキー・レイン
 6位「砂に書いたラブレター」パット・ブーン
 7位「魅惑のワルツ」デヴィッド・キャロル楽団
 8位「リトル・ダーリン」ダイヤモンズ
 9位「冷たくしないで」エルヴィス・プレスリー
10位「マルセリーノの歌」サウンド・トラック

 順位こそ米国とは異なるものの「砂に書いたラブレター」や「リトル・ダーリン」もちゃんと(?)トップ10入りしていることが分かる。この他、集計方法の違いからか、わが国では複数年にわたってランクの上位にとどまった楽曲が存在する。「エデンの東」は55年から58年までのロングヒットだし、「OK牧場の決闘」も57、58年と連続。米国では55年のヒットだった「アイル・ビー・ホーム」も日本では57、58年にランクイン。総じて、話題になった映画の主題曲や挿入歌はロングヒットの傾向があったようだ。

 日本の話題が長くなったが、今回取り上げるのは、日本のシングルレコード売り上げ6位、浜村美智子さんが歌った「バナナ・ボート」という曲。このタイトルは原題「バナナ・ボート・ソング」を短縮したものだが、57年のビルボードでも年間15位と26位にチャートインしている。

 前者は日本でもおなじみのハリー・ベラフォンテが歌ったもの。後者はフォーク・グループ、タリエスのコーラス・バージョンだ。この歌は元々、ジャマイカの伝統音楽で、「デイ・オー」というタイトルで歌われていた。バナナをボートの上で食べるのは楽しい、などというのんきな内容ではなく、夜勤で大量のバナナをひたすら船に運び込む荷役の心情を歌ったもの。水平線に太陽が顔を見せれば仕事が終わりやっと家に帰れる、つまり夜間のシフトがゼロになる(終わる)というので「デイ・オー」(オーは数字のゼロの意)なのだそうな。

 一方、タリエスの「バナナ・ボート・ソング」は時折り崩しながらも終始キチンとしたコーラスで、アコースティック・ギターに加えバンジョーの伴奏がユニーク。ハリー・ベラフォンテ盤は、コンガやその他の打楽器がフィーチャーされ、いかにもジャマイカの雰囲気を彷彿(ほうふつ)させるサウンド。ただ、幼かった筆者の耳では ♪ Day, is a day, is a day, is a day, is a DayO ♪ の部分が、♪ (イ)テッ、イテテッ、イテテッ、イテテ、イテテェーよぉ ♪ に聞こえたものだった。(オールディーズK)