ワクチンという言葉はラテン語の雌牛(vacca=ワッカ)が語源であると最近知った。世界初のワクチンが牛の伝染病(牛痘)を使って開発されたことに由来する▼酪農地帯に生まれた英国の医師ジェンナーが1796年、乳搾りの女性が天然痘に感染しないことに着目し、牛痘から免疫をつくる方法を見つけた。そのおかげで人類は高い致死率と強い感染力で「悪魔の病気」と恐れられた天然痘の根絶に成功した▼ワクチン誕生から225年。国内では新型コロナウイルスのワクチン接種を巡る混乱が続く。海外由来の変異株が猛威を振るい、山陰両県でも感染者が急増。早めに接種したくても予約が取れない高齢者からは悲鳴のような声が上がる▼市長や町長たちが先駆けて接種していたことが判明すると、さらに住民の不信感を招いた。当の首長らは「病院開設者として、医療従事者枠を使った」「副反応の懸念を払拭(ふっしょく)するため」「キャンセル分を活用した」などと弁明したが、後付け感は否めない。〝抜け駆け〟接種と批判されても仕方あるまい▼ことは生命に関わる問題だ。希望者が殺到するのは容易に想像ができ、そもそも早い者勝ちの仕組みに欠陥がある。キャンセル待ちのルールを設けていれば不公平感も避けられたはずだ。あらかじめ免疫をつくる予防接種と同様、住民の目線に立った説明や配慮は「事前」にしてこそ効果がある。(文)












