3歳くらいの頃、銭湯で溺れて死にかけた。その時の水の音や浮遊感を覚えていて人生で一番古い記憶。そのせいか、水中が怖くて水泳が苦手。全く泳げない▼長女が1歳くらいの頃、湯を張ったたらいに入れて遊ばせていた。漫画に夢中になり目を離していたら、たらいの中で転んで溺れていた。その後、長女は水中を怖がるようにはなっていない。本人に聞いても「覚えていない」と言う▼人間はだいたい3歳くらいの頃より以前のことを覚えていられないらしい。「幼児期健忘」と呼ばれ、20世紀初めに精神分析学の創始者フロイトが着目し研究されるようになった。自己認識や言語力が不十分で記憶を長期間保持できないのか。その後の脳の成長で検索できなくなるのか。原因は諸説ある▼母によると、1歳くらいの頃の筆者がアイロンを触らないよう一度、少し熱い状態で手に当てたところ、その後は「あち(熱い)」と言って冷たいアイロンにも近寄らなくなったそうだ。当時もそれなりに記憶し考える力はあったと分かるが、自分の記憶には全くない▼自分が覚えていない、もう一人の自分がそこにいる。同一人物なのに他人のよう。物心つく以前は、人間として自己が確立していない幼虫かさなぎの状態なのか。チョウやカブトムシのように外観まで変わらなくても中身は変わっている。何を考えていたのか、その頃の自分と話してみたい。(志)