生活雑誌『暮(くら)しの手帖(てちょう)』を愛読している。全号の表紙の裏には「これはあなたの手帖です」で始まる、初代編集長・花森安治(1911~78年、旧制松江高校卒)の言葉が記してある▼戦後間もなく、花森が「自分の暮らしをみんなが大切にすれば、二度と戦争は起きないはずだ」という決意を持って始めた一冊は、今年75周年。特徴的なのは創刊以来、外部の広告がないことだ。どのページも押し付けられず、安らかな考えに浸れる▼人気連載「エプロンメモ」は、読者の投稿による生活の知恵。「だしをとった昆布は冷凍にして、煮物を作るときの落としぶたに」「泣き止まない赤ちゃん。肌着を触ってみて。髪の毛がついていて、チクチク気持ち悪いのかも」「折り畳んだハンカチを靴べら代わりに」。こうした誰かの小さな知恵の積み重ねが暮らしを固めつつ、広げていくのだろう▼暮しの手帖より1年早く施行された日本国憲法は、改正議論が進む。第二章の章題「戦争の放棄」が「安全保障」に替わり、大規模災害などに対処するため内閣の権限を一時的に強化する緊急事態条項が加わるかもしれない。国を守るためとはいえ、私権が制限される恐れもある。知らぬ間に決まっていたとならないようにしたい▼暮らしをよくするには、知恵も努力もいる。怠れば、何かに支配され、自分らしく生きる道は遠のく。花森の創刊時の願いを思う。(衣)