司馬遼太郎さん
司馬遼太郎さん

 自由と人権、それに市場開放。今年で生誕100年になる作家・故司馬遼太郎さんは、自らの講演をまとめた著書『春灯雑記』で、この三つを現代の普遍的な文明の基準に挙げていた▼司馬さんは、戦後の日本は自由と人権は国内的には「十分といっていい水準」と見ていたが、難題は基準のもう一つ市場開放の中の労働市場。日本が文明の担い手に成長していくには避けられないと承知しつつも、司馬さんには「もし大きな規模で労働市場を開放すれば、国家そのものが変質する」とのためらいがあった▼厚生労働省によると、昨年10月時点での外国人労働者数は、過去最多の約182万人。コロナ禍で増加率は鈍ったが、前年から約9万5千人増えた。生産年齢人口が減少していく日本では、2040年には外国人労働者の需要が700万人近くになるとの予測もある▼こうした事情からか、政府も労働力確保のため外国人の長期雇用拡充へ向けて技能実習・特定技能制度の見直しに動く▼冒頭の司馬さんの見立ては32年前の講演「新しい日本をどうつくるか」でのこと。その当時、既に「日本が閉鎖的でありえた段階は、いまがぎりぎり一杯のところ」と指摘。多様性に耐えていく精神的体力の必要性に触れていた。「おびえるような結論」と司馬さんが講演の最初に前置きした「一歩、踏み出しますか。」という問いかけが現実味を帯びてきた。(己)