魂に響くような強く、美しい文様が施された樹皮衣に、大地や動植物と共鳴する歌や踊り…。松江市内で先月あった「アイヌ文化フェスティバル」は、数時間だが心を満たすステージだった▼3年前に開館当時から抱き続ける、北海道白老町のアイヌ民族の文化を発信、継承する国立施設「民族共生象徴空間(ウポポイ)」への来訪の意を改めて強くした。イベントは、ウポポイを管理運営する「アイヌ民族文化財団」が各地で開く▼個人的にアイヌ文化に引かれるのは、自然と共生し、あらゆるものに魂が宿るとする精神や風習が、遠い北の地とはいえ、同じ日本列島にあるという親和性からだ。そんなアイヌの文化や生活は、江戸末期から明治時代にかけての開拓や日本政府の同化政策で強制的に奪われた▼ウポポイは、そうしたアイヌの苦難の歴史が分かる展示が少なく、批判的な意見もあるという。松江のイベントも文化の紹介が中心だったが、講演した北海道大学アイヌ・先住民研究センター招へい教員の佐々木利和さんは「みんな異国の文化に憧れるがシャモ(和人)は(アイヌを)認めなかった。シャモの物差しでアイヌの文化を測らないでほしい」と最後に指摘した▼他を排除する暴力は今もある。時代の流れを言い訳に消えゆくものも多い。だからこそ、伝えつないだ人たちによってアイヌ文化に触れることができるありがたさをかみしめる。(衣)