首相官邸で取材対応に臨む岸田首相。この後、今国会中の衆院解散見送りの意向を表明した=15日午後
首相官邸で取材対応に臨む岸田首相。この後、今国会中の衆院解散見送りの意向を表明した=15日午後

 風にもいろんな呼び名がある。東北や北陸地方の日本海沿岸で冬場に北西から吹く暴風は「玉風(たまかぜ)」。「たま」は霊魂を指し、亡霊が吹かせる風として船乗りに恐れられていたという▼隣県・広島で3月ごろ吹く西風は「岩おこし」と呼ぶ。それには少し遅いが広島選出の岸田文雄首相が風をあおった。「解散風」である▼衆院解散について「今は考えていない」と一貫して否定してきた首相が、「会期末間近になり、いろんな動きがある。情勢をよく見極めたい」と含みを持たせたのがちょうど1週間前。玉風にあおられたように、与野党とも次期衆院選に向けて浮足立った▼ところがその2日後、「先送りできない課題に答えを出すのが岸田政権の使命。今国会での解散は考えていない」と一度あおった風を鎮めてしまった。マイナンバーを巡るトラブルなどで内閣支持率が頭打ちとなり、選挙に不安が出たのも一因だろう。一方で国会審議は形骸化。衆院審議では抵抗した立憲民主党も、参院ではあっさり採決を受け入れ、防衛費の歴史的な大幅増額に向けた財源確保法が成立した。財源の裏付けが曖昧なままなのに▼解散は首相の専権事項とはいえ、自らあおって国会の与野党攻防に利用する手法は、どうにも納得できない。国民の疑問に正面から答えず、恣意(しい)的に権力を行使していては、政治と有権者の間の隙間風が、ますます強まってしまう。(健)