電卓の生みの親として知られる浜田市出身、シャープ元副社長の故・佐々木正さんは「八百屋のおっちゃんが手軽に使える」製品を目指して、小さくて、安い卓上計算機の開発を推し進めたという。遺族からの寄贈品展が、浜田市郷土資料館で開かれている。手がけた電卓が時系列に並び、進化の過程が一目瞭然だ▼昭和40年ごろ、机上を占領していた計算機は集積回路や液晶の革新的技術を採用。手のひらサイズから、さらにはカード型に形を変えた。庶民にも手に入りやすくなり、企業の事務処理用だった機器は、暮らしの中でも使われる便利なアイテムとなった▼では当時、これが広まると人間の計算力が低下するといった社会的懸念はどれだけあっただろうか。子どもが学校にむやみに持ち込んで、成長に影響を及ぼしたという話は聞かない▼昨今話題の対話型AI(人工知能)に対しても、考える力が奪われるのではと危惧する声がある。ではそれを一律に禁止したとして、不正な利用を見抜けるかどうかそもそも疑わしい。〝判別はAIに〟となりはしないか。そうなると止めようにも止まらない▼確かにAIは偽情報の流布や著作権侵害の課題を抱える。電子工学分野で世界から尊敬された佐々木さんは、技術には「どうすれば人間の幸福に生かせるか」という哲学が要ると唱えた。郷土の偉人は対話型AIの台頭をどう評価するのだろう。(史)