アフガニスタン・カブールで、パンを受け取るために手を伸ばす人たち=2022年1月(ロイター=共同)
アフガニスタン・カブールで、パンを受け取るために手を伸ばす人たち=2022年1月(ロイター=共同)

 <最後の一粒までちゃんと食べるのよ。そうしたくても、最初の一粒もない子が世界にはいます>。飢餓と貧困の撲滅に努める国連世界食糧計画(WFP)の日本窓口、国連WFP協会を支援するACジャパン(旧公共広告機構)のキャンペーンCMの一節だ。昨年7月から1年間、テレビやラジオなどで放送された。女優の杏さんの語り口を覚えている人も多いだろう▼「飽食の時代」とされる日本。一方、世界へ目を転じると気候変動や紛争で10人に1人が飢餓に苦しんでいる。「最初の一粒もない」国がある事実を伝え、関心を喚起するのがCMの狙いだった▼だが、現状は改善されていないようだ。WFPなどによると、紛争や自然災害で深刻な食料不足に陥った人の数を示す昨年の「急性飢餓人口」は、調査対象の58カ国・地域で2億5800万人に上った。前年の1億9300万人から大幅に増加し過去最多に。ロシアのウクライナ侵攻による食料価格の上昇も影響している▼それを思えば、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡って、日本の水産物輸入を全面停止した中国の対応がむなしく感じる。これも違う形の〝紛争〟なのだろう▼きょう9月9日は「捨てない(ナイン)」「残さない(ナイン)」の語呂合わせで「食べものを大切にする日」らしい。強硬な中国の姿勢に複雑な思いを抱きながら、食卓で最後の一粒までちゃんとかみしめる。(健)