昭和の終わりごろ、学校を終えて遊びに行けば多くの友人宅には「おばあちゃん」がいた。核家族は数えるほどで、ゲームに参加したり、おやつを出してくれたりしたものだ。わが家も3世代世帯で、大正生まれの祖父母の話や振る舞いが知らず知らずのうちに身に付いていると思う▼そんな祖父母の存在が人間の発達の鍵を握ってきたという。子どもに人気の『ざんねんないきもの事典』の監修者で、動物学者の今泉忠明さんによると、祖父母と過ごす動物はほとんどおらず、多くが次世代を産み育てれば死ぬか、別の場所で暮らす▼例外がクジラやシャチ、ゾウ。ゾウは祖母が率いる群れで子育てがなされ、餌場や水場など生きるための知恵を孫に伝える。あれだけ大きな生き物が現代に残っているのは、優れた記憶力で土地を把握し、導く祖母のおかげなのだという▼年を取れば役目がないと感じる人もいるだろうが、今泉さんは「自分がやってよかった、と思うことを若い人に伝えることが生きる意味になる」と先日、松江市であった講演で呼びかけた▼祖父母との時間や話が心に残っているのは、人間の本能と録画技術がない中で刻まれた、豊かな心象風景だからだろう。今泉さんが危惧するのは核家族が増え、知恵が孫世代に伝わらなくなっていることだ。人工知能(AI)が代わりをするかもしれないが、人間の発達にどう影響するのだろうか。(衣)