偽情報を表すフェイクニュースという言葉が定着したのは、2016年の米大統領選がきっかけだった。あれから7年たった現在、主流は「ディープフェイク」に移ったようだ▼大量のデータから自動的に特徴を発見できる人工知能(AI)技術で「深層学習」とも呼ばれるディープラーニングと、フェイク(偽物)を組み合わせた造語。AIによって合成・生成された媒体を指すが、人をだます目的で写真、音声、映像の一部を入れ替えて本物そっくりに合成した媒体と言った方が、ぴんとくるだろう▼思い出すのがウクライナ侵攻が始まって間もない昨年3月。ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアへの降伏を呼びかける偽動画が投稿され騒動になった▼ただ、先日講演を聴いた東京工業大の笹原和俊准教授によると、まばたきや首筋には違和感があり、ディープではなく「チープ(粗悪な)フェイクだ」と指摘。それでも最近は見分けがつきにくい映像も増えているという▼こちらもAIを使っているが、フェイクではなく「本物」だ。20世紀を代表する英ロックバンド・ビートルズの〝最後の新曲〟という『ナウ・アンド・ゼン』の配信が始まった。1980年に亡くなったジョン・レノンさんが残したデモ音源から声だけを分離し、他の3人の演奏音などを加えて新曲を完成させた。せっかくの技術は人をだますのではなく、喜ばせるために使いたい。(健)