つけなかみかみ、おゆをのんでねました-。小学校低学年だったと思う。国語の授業で習った「かさこじぞう」(岩崎京子さん再話、創作)の一文がずっと頭に残っている▼大みそかにばあさまと暮らすじいさまが、正月支度のためにすげがさを作って町に売りに出たものの一つも売れず…。当時、誰もがごちそうやそばを食べて年越しを待つものだと思い込んでおり、軽いショックを受けたからだ。恵まれた環境にいたのだ▼久しぶりに読み返すと、2人の互いを思いやる心持ちがしみじみと心に響く。かさが売れず、ばあさまががっかりするだろうなと案じるじいさま。売れなかったかさを、雪をかぶる地蔵さまにかけたことを「それはええことをしなすった」とねぎらうばあさま。物語は、かさをかけた地蔵さまが、餅や野菜をどっさりと2人の家に持って来て、終わる▼現実の世界では、地蔵さまのような計らいが生活困窮世帯などに食品を無償で提供する「フードバンク」という形で存在する。先月は、山陰初の24時間営業のフードバンクが出雲市内にオープンした。開いた男性は「誰かが旗振りをしないと子どもは救えない」と奔走しているという▼じいさまとばあさまも、その年の正月は越せても根本的な暮らしを変えるのは難しかっただろう。それでも誰かが誰かを思いやる心が、社会を変える一歩になる。そんな願いを込めて。よいお年を。(衣)