会談する大平正芳首相(右)と福田赳夫前首相=1980年3月、首相官邸
会談する大平正芳首相(右)と福田赳夫前首相=1980年3月、首相官邸

 「三人寄れば文殊の知恵」という。凡人でも3人集まって相談すれば何とかいい知恵が生まれるものだ、ということわざ。とはいえ、生まれるのは文殊の知恵だけとは限らない。

 同じ人数でも大平正芳元首相はこんな言葉を残している。「人間3人集まれば派閥ができる」。2対1に分かれるからだ。1970年代の自民党は佐藤栄作総裁(首相)の後継の座を、派閥を率いる大平、三木武夫、田中角栄、福田赳夫の4氏が激しく争った。名前の1文字を取って「三角大福」と呼ばれ、各自が勢力拡大に力を注いだ。

 あれから半世紀。派閥の存在が大きく揺らいでいる。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、党の政治刷新本部が発足。疑惑のある安倍派議員をメンバーに加えたことで本気度が問われた岸田文雄首相だが、大平氏の流れをくみ、自らが率いた岸田派(宏池会)を解散する意向を唐突に表明した。

 「隗(かい)より始めよ」の格言通り、派閥解消を主導して世論の批判をかわす狙いだろう。ただ、会計責任者らが立件された安倍派や二階派はともかく、他派閥が全て追随するかは見通せない。

 思えば、国民を代表して国政を審議する国会議員は凡人ではないはず。それが多数集まり、党や派閥の苦境を乗り切る算段に頭を痛めるだけでは情けない。26日には通常国会が召集される。文殊の知恵は本来、国民の生活向上のために絞ってほしいのだが。(健)