<着てはもらえぬ セーターを 寒さこらえて 編んでます>に<編んでもらえぬ セーターを 寒さこらえて 待ってます>で返す。演歌歌手の都はるみさんの代表曲『北の宿から』の歌詞の一部を替えながら、男女の恋愛感情を取り交わす「昭和の相聞歌」として誰かが歌っていたのを思い出す。半世紀近く前になる。「はるみ節」と呼ばれた、うなり声のような力強いこぶし回しや、深いビブラートを残しつつも、どこかニューミュージックの薫りを漂わせていたのが印象的だった▼その名曲などを作曲した小林亜星さんが亡くなった。享年88歳。作曲家、俳優、タレント…。あの巨体から生み出される才能は多彩だが、もしかしたらそれらの肩書が「医師」2文字の陰に隠れたままだったかもしれない▼慶応大医学部に進学したが「ろくに勉強せずジャズばかりやってた。不良だったんですよ」。「不良医師」になる代わりに選んだ音楽の道の原点はジャズだった▼ジャズの特徴であるアドリブ(即興演奏)は、自由な音の空間に遊び、音の操り方を鍛錬できる。だからなのだろう。CMソングなどに生かされた豊かなイメージ喚起力は、アドリブ学習効果では、と独断に誘われる▼そういえば、テレビドラマ『寺内貫太郎一家』の取っ組み合いシーンで息子役の西城秀樹さんが亜星さんに投げ飛ばされて骨折したのも、アドリブの勢いだったか。(前)