「国民の命と健康を守ることが前提」と菅義偉首相が繰り返す東京五輪の開幕が1カ月後に迫った。新型コロナウイルスの感染再拡大が懸念される中、1万人を上限に定員の半分まで観客を、さらに別枠で大会関係者などを入れるという▼五輪の後にはパラリンピックも控えている。感染症の専門家からは、五輪期間中の「第5波」を危ぶむ声が上がる。緊急事態宣言が再発令されれば無観客もあり得るそうだが、そうなっては「安全・安心」とは言えない▼首相が強調するのは、コロナ対策の「切り札」と位置付けるワクチン接種の促進。「1日100万回」や「10月から11月に全て終える」と決意を示す。確かにワクチンは有効だが、あくまで死者や重症者、感染者を減らす手段。その結果、開催時やその後に、どこまで感染を抑え込めるのかは見えていない▼仮に7月から9月末までの全国の新規感染者が1日平均3千人、計約28万人に達したとしても、人口比で言えば0・2%ほど。残り99%超の大半が五輪で感動すれば開催は成功で、「国民の命と健康を守る」ために最大限の努力をしたことになるかどうか▼菅政権になってからのコロナ禍による死者は1万3千人を超え、累計の約90%になった。感覚がまひしそうな人数だが、たとえ名も無き一人でも、命の重さはメダルの重さよりも軽くはないはず。そのことだけは念を押しておきたい。(己)