「いつまでもあると思うな親と金」が父の口癖だった。親はいつかは死ぬもので、使えばなくなるのがお金。子どもの自立を促そうとしていたのだろう。まもなく8回目の命日を迎える▼いつまでもあると思っていたのがJR木次線を走るトロッコ列車「奥出雲おろち号」。新緑、紅葉と四季折々の風景の中を走る姿を目にする。今年は乗ろうとしていた矢先に発表された2023年度運行終了に、父の言葉が頭をよぎった▼おろち号は、推理小説作家・西村京太郎さんの十津川警部シリーズにも登場する。作中、路線の見どころとして紹介されるのが3段式スイッチバック。JR西日本管内で標高が最も高い三井野原駅まで、162メートルの高低差を列車の向きを変えジグザグに上る。路線別の乗客数は公表されていないが、スイッチバックがある区間の運行本数の少なさを見ると、乗客が少ないのは明白だろう▼三江線が廃止されて3年。取材で何度も「木次線は残さなければ」と聞いた。おろち号の終了により、将来への危機感は強まる。にもかかわらず、つい先日、木次駅から宍道駅まで乗車した際は途中から〝一人旅〟。「残したい」は口だけかと問いたくなる▼今年3月、十津川警部が訪れた後、廃線になった路線で起こった事件を集めた短編集が出た。いつまでもあると思っていないか。警部には、廃止後の木次線になんて、立ってほしくない。(目)