雪崩発生3日目の早朝、隊列を組んで現場に向かう捜索隊の隊員=4日午前7時5分、鳥取県大山町大山
雪崩発生3日目の早朝、隊列を組んで現場に向かう捜索隊の隊員=4日午前7時5分、鳥取県大山町大山

 おおらかだった祖母が生前、一つだけ口を酸っぱくして言っていたことがある。「山には登るじゃないで」。そう言う時のブラウン管の向こうは必ず山の事故の映像。折に触れ、語気を強めた出雲弁を思い出す▼夏山の爽快さを味わった経験はあるし、登山家の冒険譚(たん)に胸は躍るが、のめり込むまで行かないのは、あの顔が浮かぶからか。祖母の胸中では長男の名に「岳」の字を入れた山好きの伯母を心配する気持ちも重なったのかもしれない▼2日に国立公園・大山の北壁で起きた雪崩に巻き込まれた男性3人のパーティーのうち2人が見つかっていない。雪崩注意報は出たまま。標高千メートル付近の避難小屋を拠点に、琴浦大山署を中心とする捜索隊が目視で続ける捜索は難航している。ならば「上空からヘリコプターで」と考えるのは早計。回転翼の吹き下ろし風が新たな雪崩を誘発しかねず、その間地上活動ができないことも考慮しなければならない▼悪天のため捜索が日没を待たず打ち切られる日が続いた1週間。いくら危険でも山の立ち入りを制限する法的根拠のない中、あらためて痛感させられるのは、起こってしまえば「自己責任」では立ち向かえない自然の圧倒的な力だ▼人ごとと思うなかれ。経験やスキルの有無、シーズンを問わず登山届の提出はもはや常識。天気はどうか、情報はあるか。必要ならば「登るじゃないで」と声をかけよう。(吉)