中国全人代の閉幕式に臨む習近平国家主席(手前)=11日、北京の人民大会堂(共同)
中国全人代の閉幕式に臨む習近平国家主席(手前)=11日、北京の人民大会堂(共同)

 「壊れたら直さずに捨てる。そうすれば新しい物が売れるから経済が回る」。脚本家の倉本聰さんは小学生の時、「それが資本主義だ」と先生に教わったそうだ。テレビCMで語っている▼代表作のドラマシリーズ『北の国から』では、北海道富良野に戻りごみ収集の仕事をする純が粗大ごみの捨て場を欲しい物が何でもそろう「山部山麓デパート」と呼び、まだ使える家具や電化製品を持ち帰った(『’95秘密』)。倉本さんは「節約は悪で、浪費が善になってしまった」と世の中に厳しい目を向ける▼この逆転した善悪をプロパガンダの新たなスローガンにしたい国があるようだ。全人代が閉幕した中国は、経済対策で自動車や電化製品など耐久消費財の買い替え策を打ち出した。爆買いに象徴されるように元来浪費好きのお国柄のはずが、不動産不況や少子高齢化の将来不安でデフレ圧力が強まり、財布のひもが固くなっているらしい▼それにしても、この国には排出ガス基準に満たない古い車が1600万台以上あり、使用年数の過ぎた家電が毎年約2億7千万台出るという。買い替え需要と実際に消費が動いた場合の経済効果は相当なものだろうが、捨てられるごみの量を考えると恐ろしい▼高機能付きの新製品の方が地球環境に優しく、節電にもなるとは正論なのだろう。ただそう考えるそばで「それが資本主義だ」とささやく声が聞こえなくもない。(史)