心に明かりがともるニュースに触れた。製糸業が盛んだった長野県岡谷市の小学4年の八並伸之介君が、野生の蚕「野蚕」を死なせずに糸を取る方法を考え「全国児童才能開発コンテスト」の科学部門・高学年の部で、最高賞を受賞したという▼このニュースに引かれたのは昨年、かつて日本が世界一の生産量を誇った絹をテーマにしたドキュメンタリー映画『シルク時空をこえて』を見たからだ。作中の蚕種農家による交配のシーン。成虫の雄雌とも羽を動かすのに飛ばない▼島根の産業も支えた養蚕業や蚕そのものをよく知らないことに気付いて調べると、蚕は4回の脱皮を経て糸を吐き、繭を作るが、製糸業では生糸のもとになる繭が傷つかないよう、中のさなぎが羽化する前に湯で煮る。成虫が飛ばないのは、古代から人間が品種改良を重ね、飛べなくしたから。周知の事実だろうが、蚕の運命に今になってショックを受けた▼八並君は「死なせるのは、かわいそう」と、5年前から屋外に生息する8種類の野蚕を飼育すると、1種類の繭だけ上部に穴があることを発見。その穴から幼虫を取り出した後に煮て、2メートルの糸を取ることに成功した。幼虫も無事に育って成虫になったという▼「蚕から育つ蛾(が)もかわいくて美しいので、死なせずに糸が取れると分かりうれしかった」と八並君。優しい気持ちを基にした発明は誰もがうれしいよ。ありがとう。(衣)