香具山の頂上から見える耳成山(資料)
香具山の頂上から見える耳成山(資料)

 南極には日本が設ける四つの基地がある。昭和、みずほに次いで古いのが、1985年3月26日に観測拠点として開設された「あすか基地」。背後の山々が奈良県の飛鳥地方にそびえる香(か)具(ぐ)山、畝(うね)傍(び)山、耳(みみ)成(なし)山の「大和三山」に似ていたことから名付けられた▼この三山は男女の三角関係にあったらしい。中大兄皇子は<香具山は畝火ををしと耳梨と相あらそひき神代より~>と、一人の女性を巡って複数の男性が争う「妻争い」について、「神代だってあったのだから現実の人間だって当然あるさ」と詠んだ▼このこじれた関係に一役買おうとしたのが、出雲の阿菩大神(あぼのおおかみ)だ。仲裁のため大神が出雲から大和(奈良県)に出向く途中、播磨国(兵庫県)で争いが治まったことを聞き、「せっかく来たのに」と不満を募らせ、乗ってきた船を伏せて座った。後に船が丘になり、その地を神阜(かみおか)という、との神話が『播磨国風土記』に残る▼よほど、自身の手で解決したかったのだろう。色恋沙汰が好きだったのか、面倒見が良かったのか。人物像ならぬ神像に想像が膨らむ。その阿菩大神は、中大兄皇子の反歌にも見える。島根県内では出雲市斐川町出西の伊佐賀神社(通称・伊保神社)に祭られ、大国主命のひ孫という説もある▼いずれにせよ男女の仲は当人同士で解決するのがベスト。「犬も食わぬ」ではないが、神様とて召し上がらない方が良いということだ。(衣)