出雲市役所と約1キロ北にある島根県立中央病院の間は高い建物がなく、出雲在勤時は空き時間に市役所3階の記者室の窓越しに、病院の屋上から飛び立つ県の医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)を眺めていた▼2011年6月の運用開始から10年が経過した。救急医療に必要な機材を積んだ機体に専門医や看護師が乗り込み、海や山を越えて現場へ急行する。20年度の出動件数は511件で、累計は6千件を超えた▼病院で一定の経験を積んだ人がクルーに選ばれる。だが、なりたての看護師に話を聞くと、原則は医師1人、看護師1人の組み合わせだけに、かかる責任の重さに緊張感が増すという▼ドクターヘリと言えば目前の状況に全力で当たるイメージだが、ベテラン医師の話からは別の大切な役割に気付かされる。ドクターヘリは事故の現場近くに駆け付ける救急搬送とは別に、高度な病院へ移すことで病気やけがの後遺症を軽減する転院搬送がある。20年度は出動件数の3分の1強を占めた▼病院間のスタッフ同士に信頼関係があることは、患者や家族の安心につながる。関係を積み上げるには、中山間地域や離島で活動している医療従事者や救急救命士との引き継ぎなどのやりとりから、相手の置かれている仕事の状況を把握することが大事だという。「鳥の目」となって、島根の地域医療を俯瞰(ふかん)するのが、ドクターヘリのこれからの使命だ。(万)