短歌 寺井淳選

大根のとろけむほどに煮込めるを夫は喜び今日の日過ぎゆく    益 田 能美 紀子

  【評】とろけるほどに煮込む、ゆっくりと過ぎる時間には生活の実質がある。夫にとってはどうなのだろう。それを喜びとする夫の、一抹の寂しさが結句に暗示されるよう。

一畑にエスカレーターありて手を引かれ差し出したりし一歩の記憶 松 江 永原  知

  【評】エスカレーターという「近代」におずおずと踏み出す一歩の記憶。動く階段は科学のもたらす輝かしい未来そのものだった。歌枕として「一畑」が共有され...