自動車の安全性や品質を確かめる認証申請の不正がトヨタ自動車、ホンダなど5社で見つかった。認証制度は大量生産に欠かせない「型式指定」の基盤になっている。新たに不正が見つかった車は計38車種に上る。国土交通省が立ち入り検査を始めたのは当然だ。
自動車は日本のものづくりのシンボルであり、品質を武器に世界の市場を開拓してきた。最も深刻なのは8年ほど前から続く認証不正に終わりが見えないことだ。2022年からは日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機とトヨタグループで立て続けに発覚している。グループの指導役だったトヨタの失態は、とりわけ重苦しい雰囲気を広げている。
各社の経営者は、不正の泥沼から抜け出すための道筋も描けていない。情けないとしか言いようがない。円安と製品値上げで自動車各社の利益は大きく膨らんだ。トヨタの24年3月期連結決算の営業利益は5兆円を超え、空前の規模になった。
認証不正の背景にあるのは、開発期間の短縮だと指摘されている。新車を納期に間に合わせ、市場に早く投入できれば利益に直結する。経営者にとって業績が最大の目標だ。しかし、そのために何をやっても許されるわけではない。新車開発や量産化の担当者がルールを逸脱してしまった理由と背景にもっと目を凝らすべきだ。
その上で、不正を引き起こした企業として、責任を明確にしなければならない。
トヨタやホンダによると、法規よりも厳しい条件で安全試験を実施したため、規定に沿ったテストをあえて省き、書類上はルール通りだったと装った例があったという。開発期間が限られる中、できるだけ試験回数を少なくしたかったのだろう。
輸出先の規定に合わせて厳しい条件で検査しても、国内の法規に合わせてデータや書類を改ざんすれば、とがめられる。「不正はあったが安全性には問題がない」と主張するのはこういう場合だ。
マツダの場合、衝突試験やエンジン出力試験ではルールを示した手順書に基準がはっきり書いていないため、現場が独自の解釈を交えて実験していた例があったという。
認証の仕組みが複雑で、ルールに曖昧さがあるのは、かねて指摘されている。安全性能を確かめる試験や認証に必要な検査に、合理化の余地があるのではないか。不正は許されることではないが、技術革新に法規が追い付かないケースはあり得ることだ。認証の精度をより高めるためにも、国土交通省は自動車メーカーとの情報交換を深め、実情に即して改善を重ねる必要がある。認証に関連した法規やルールも点検し、試験の手順などをできるだけ明解に示してほしい。
認証申請のためには、長い期間をかけた多様な試験やデータ分析が必要だ。利益よりも安全や品質を優先する規律を、開発と生産の現場に根付かせることが欠かせない。これは経営陣の責任だ。
自動車産業は転換期を迎えている。ガソリンエンジン、ハイブリッド車、電気自動車(EV)などを全方位で開発する手法がいつまで可能なのか。量の拡大と収益優先の路線を変えなければ、開発現場、工場、下請けのどこかでほころびが生じる。自動車各社の経営姿勢をあらためて問わねばならない。