厚生労働省による2023年の合計特殊出生率の公表と「子ども・子育て支援金」法の成立は、同じ5日だった。それぞれ政府と国会の動きだが、あうんの呼吸といったところか。報道を通じて危機感を持った人は少なくないだろう▼公的医療保険料に上乗せされて徴収されるこの制度は、誰から誰への支援なのか。字面を見ると幅広い世代から子育て世代や子ども自身へ、ということだろうが、さて、子どものニーズをどう測定し、使い道を決めるのか▼東京大名誉教授・神野直彦さんの近著『財政と民主主義』(岩波新書)では、あるべき子ども・子育て支援について、こう述べている。<「声なき声の民主主義」という言葉がある。これは年少世代の子どもたちには選挙権がなく、政治的発言権が与えられていないので、子どもたちの生活や成長を保障する社会保障に最も高い優先度が与えられなければならないという理念である>▼さらに、育児、教育サービスといった現物支給も無償で、しかも利用可能な距離で保障されなければならない、と訴える。共感するが、28年度で1兆円という限定的な財源では、従来の児童手当や児童扶養手当の加算といったような、異次元とは言えない対応に終始しそうだ▼医療保険の〝目的外使用〟ではなく、増税の賛否はともあれ、全額を社会保障に充てるとかねて公言する消費税で勝負するしかないように思える。(万)