新しい紙幣が発行されたことで、山陰地方で唯一紙幣の図柄になった鳥取市の宇倍神社の参拝を思い立った。648年創建とされる「因幡国一の宮」。1899年発行の5円札や1943年の1円札に、祭神の武内宿禰命(たけのうちのすくねのみこと)と拝殿がデザインされた。
武内宿禰は12代景行天皇から5代の天皇に仕え、360歳まで生きたという伝説の人。島根では松江市の武内神社の祭神といえば通りがいいか。生まれは和歌山だが中央で活躍した後に因幡国へ下向し、宇倍神社がある亀金岡(かめがねのおか)に「双履(ぞうり)」を残して昇天した逸話と霊跡が残る。
図柄に選ばれた理由を神職に聞くと、「全国の一の宮で武内宿禰命だけを祭る神社は他になく、昇天された尊い場所であるのが大きいのでは」とのこと。
確かに一段と空気が澄んだ「尊い場所」という印象が残ったのは、楽しい出会いもあったからかもしれない。脇に森が広がる社殿までの石段に、数人でいた男児の一人が「ヤモリって何食べる?」と虫籠を見せて尋ねてきた。「クモかな」と答えると、別の子が「クモはいけん。捕ったら食べられる」。反撃され巣にからめ捕られるという意味か。「そうかもしれん、もっと探してみなよ」と言って別れた。
鎮守の森に虫籠を持った少年という図柄はいかにも古き良き日本の風景。知らない人に屈託なく話す平穏さにも、尊い場所とはこうした子どもたちが集まる場所なのだと合点した。(衣)