スぺインには多くの種類のソーセージがある。代表格はチョリソーだろう。16世紀に同国が新大陸を征服した際に中南米に持ち込まれ国民食となった▼スペイン語圏で「ソーセージのように売れた」のが、2014年に死去したコロンビアのノーベル賞作家ガルシア・マルケスの代表作『百年の孤独』である。発表は1967年で、架空の村マコンドを舞台にある一族の繁栄と衰退を描いた長編小説。46言語に翻訳され、5千万部を売り上げている世界的ベストセラーだ。日本では72年に新潮社から刊行されたが、版権の交渉などから文庫化に至らず「すれば世界が滅びる」との都市伝説が生まれた▼邦訳から半世紀以上が経過した6月末、出版界が〝大事件〟と騒ぎ立てる文庫化が実現した。作家の没後10年を受け、話が進んだ▼読み通すのは簡単ではない。600ページを超す分量に加えて、同じ名前の人物が多数登場するため、時系列を追い切れない。一方で、思わぬ場面で回収される伏線の張り方、予期せぬ結末は圧巻だ。物語が持つ圧倒的な力は想像力をかき立て、本当の知識や教養は難解さの中に紛れていると気付かされる▼多くの書店で品薄になり、今も変わらずソーセージのように売れているという。コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)とは正反対の価値観で書かれた作品が受け入れられている現実に胸をなで下ろす。(玉)