2018年に台北市で開かれた、いわさきちひろの特別展。愛らしい作品は世界で愛されている(資料)
2018年に台北市で開かれた、いわさきちひろの特別展。愛らしい作品は世界で愛されている(資料)

 子どもを描き続けた画家・絵本作家のいわさきちひろさん。淡い色彩で表現される子どもたちに、自身の幼少期や追憶の中のわが子を重ねる人も多いのでは。わが家は、東京都内の「ちひろ美術館」で購入した小さな額を飾っている。

 1974年8月8日に55歳で病死して50年。最後に完成させた絵本が、ベトナム戦争下の子どもに思いを寄せた『戦火のなかの子どもたち』だ。作品に特徴的な黒目がちに描かれる目が同作では塗り残され、虚無感を伝える。

 こうした戦争を描くきっかけが、原爆を体験した子どもたちの証言集『わたしがちいさかったときに』の挿絵を担当したことだった。描き上げた後、「戦争の悲惨さは子どもたちの手記を読めば分かる。私の役割は、どんなに可愛(かわい)い子どもたちがその場におかれていたかを伝えること」と話した。

 多くを語らなかった自身の戦争体験も影響しているだろう。軍属の父と女子青年団の主事として多くの団員を満州に送った母の人脈から「特別待遇」を受けた満州での生活など、「(戦争協力者の側にいた)罪の意識がずっとあり、純粋なものへの強烈な憧れが子どもへ向かった」とは、ちひろ美術館初代館長の故飯沢匡さんの推測だ。

 『わたしが~』の挿絵で印象的なのは、悲しい証言文とは裏腹に、こちらが思わず笑顔になる赤ちゃん。あすは8月9日。79年前の長崎にいた子どもたちを思い黙祷(もくとう)する。(衣)