「ベルナの目はななえさんの目」(郡司ななえ、織茂恭子さく、童心社)


 目が見えないななえさんとこうじさんは仲のよい夫婦です。ななえさんは、子どもがほしいと思うようになりました。こうじさんより、白杖(はくじょう)を使って歩くことが上手ではありません。でも育児には外出も必要。そこで盲導犬と暮らすことを決心しました。


 盲導犬候補ベルナと訓練所に泊まり込みで訓練し、盲導犬試験に合格。一緒に生活を始めますが、ベルナとバスに乗ったり、スーパーへ入店しようとしたりすると断られます。ベルナとの生活はどうなっていくのでしょうか。

「ベルナの目はななえさんの目」(郡司ななえ、織茂恭子さく、童心社)


 盲導犬は、介助犬、聴導犬と並んで身体障害者補助犬です。この絵本が出版されたのは1996年。現在は2002年10月施行の身体障害者補助犬法で、補助犬の同伴を施設が拒否することは禁止され、作品に描かれているような事例は法律違反に当たります。


 読み聞かせでは「ななえさんがバスに乗れなくてかわいそう」と心情に寄り添っておしまいではなく、盲導犬など仕事をする犬は、障害のある人にとって大切な存在であり、今では法律でしっかり守られていることを伝えましょう。スーパーやレストランの玄関などに貼ってある補助犬マークを「これは何だろう」と話題にするのもいいですね。


 ちなみに、補助犬マークは「補助犬が入れる」という意味ではなく、補助犬や補助犬が同伴できることを知っているという、施設側の当然の意識や理解をあえて示すものです。マークがなくても、法律に基づいて補助犬は同伴できます。


 小学校の道徳科などで、視覚障害や盲導犬が扱われることがよくあります。しかし、国内で利用を待つ視覚障害者約3千人に対し、活動している盲導犬は800頭ほど。供給が全く追いついていません。育成にはお金も時間かかり、育成スタッフも足りていません。


 子どもたちは盲導犬を実際に見たこともないのに、「視覚障害者は盲導犬を使っているものだ」と認識してしまいがちです。視覚障害者の生活のお助けツールは盲導犬だけではなく、点字や点字ブロック、「ピヨピヨ・カッコー」「とおりゃんせ」などの音で青信号を伝える音響信号など、さまざまなものがあると、普段の生活の中で気づかせてほしいと思います。

 

みずうち・とよかず 岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。