「スイミー」の書影(作 レオ=レオニ、訳 谷川俊太郎、好学社)

 1963年、オランダの絵本作家レオ=レオニさんの作品です。69年には谷川俊太郎さんの翻訳で日本でも出版され、77年以降は小学2年生の国語の教科書にも採用されているので、多くの方がご存じでしょう。

 

 皆さんは、スイミーが他の赤い小さな魚とともに大きな魚に見えるように一体化して、自分たちを襲ってくる魚たちを追い払ったストーリーを思い浮かべると思います。そして、スイミーだけが黒いこと、スイミーの賢さや勇敢さが強く印象に残っているのではないでしょうか。

 何より、学校教材として扱われていることから、みんなで協力し合う大切さこそが重要なテーマだと思っている方もいるでしょう。

「スイミー」の一場面(作 レオ=レオニ、訳 谷川俊太郎、好学社)


 改めて読み返すと、「ひろい うみの どこかに、ちいさな さかなの きょうだいたちが たのしく くらしてた。みんな あかいのに、一ぴきだけは からすがいよりも まっくろ、でも およぐのは だれよりも はやかった。なまえは スイミー」とあります。スイミーは赤い魚たちときょうだいであることや、得意なこととして泳ぎの速さがしっかり書かれているのです。

 これは、今で言う「ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)」、つまり個々の多様性を尊重し、それらを包み込む寛容な社会が重要だというメッセージが込められていた、としたら言い過ぎでしょうか。

 これは、レオ=レオニさんの『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』にも通じますので、ぜひ手に取って読んでみてください。そして、スイミーを読み聞かせる時には、協力することの大事さはもちろんですが、自分や家族、友だちの得意なことも話題にし、気づかせてあげると良いでしょう。

 自分自身についての肯定的な理解は、自己選択や自己決定、その先にある自己実現に大きく影響します。レオ=レオニさんも、日本で国語科の教材として長く取り扱われることはもちろんのこと、まさか60年以上後に、インクルーシブ社会を考える絵本の紹介コーナーにスイミーが取り上げられるなんて、思ってもみなかったことでしょうね。

 

みずうち・とよかず 岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。