「くうちゃん いってらっしゃい」(まえがわかえで さく・え、白順社)


 「くうちゃんは といれに いきます けんけんけんっ」「ぽうちゃんは くつしたを はきます くうちゃんは ぎそくを はきます」


 くうちゃんが、きょうだいのぽうちゃんとともに、朝起きて着替えをして、トイレに行って、ご飯を食べて、友達と学校に通う、そんな日常が描かれています。続編の「くうちゃん うみにいく」では、家族で海水浴にも行きます。

 作者の前川楓さんは、3大会連続のパラリンピック女子走り幅跳び日本代表選手です。バスケットボールに夢中だった中学3年生の時、愛犬と散歩中に事故に巻き込まれ、右の太ももから下を切断します。でも、大好きなロックバンドのライブに行ってジャンプしたいと思い、義足歩行の練習を決意したそうです。


 絵本「くうちゃん いってらっしゃい」は、愛犬のくうちゃんをモデルにした義足の子犬の物語です。作中の義足は、前川さんが競技で使っている義足と同じようにカラフルでかわいいものとなっています。
 

「くうちゃん いってらっしゃい」(まえがわかえで さく・え、白順社)


 絵本を制作したきっかけは、アスリートとして小、中学校で講演した時に、子どもたちから「義足はどうやって付けるの」「お風呂はどうやって入るの」といった質問がたくさん来たことです。


 前川さんは視力の弱い人がメガネをかけることと、足がなくて義足をつけることは一緒の感覚だと感じているので、子どもたちが小さい時から義足に触れる機会がもっとあれば、理解が変わっていくのではないかと思い、義足の魅力を伝えようと絵本を作りました。


 足がなくたって、義足があれば歩くことできるし、自分が望むライブにも行けたりスポーツもできる。働いたり、スポーツ大会で活躍してみんなに元気を与えたりする、くうちゃんや前川さんのポジティブなメッセージが読み手に伝わってきます。


 パラリンピックは、世界最高峰の障害者スポーツの総合競技大会。前川選手も出場するパリパラリンピックは、8月28日から9月8日まで、オリンピックに続いてフランス・パリで開かれ、走り幅跳びも含む全22競技が行われます。ぜひテレビを見ながらお子さんと応援し、このコラムを見ながら話題にしてみてください

 

みずうち・とよかず 岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。