「たっちゃん ぼくがきらいなの-たっちゃんはじへいしょう(自閉症)」(さとう としなお・作、みやもとただお・絵、岩崎書店)


 この絵本は、自閉スペクトラム症のある「たっちゃん」のクラスメート、「ぼく」のたっちゃんへの疑問に答える形で描かれます。


 ぼくが、たっちゃんと遊ぼうとしても、たっちゃんはいつも逃げていくし、1人でいつも洗面器を回しているし、いつも意味の分からない独り言をつぶやいています。そうかと思うと、突然大きな声を出して自分の頭をたたくので、ぼくのことが嫌いなのかな、と思っています。


 でも、ぼくのことが嫌いなのではなく、たっちゃんは発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)なのです。


 ASDは「コミュニケーションがうまく取れない」「人との関わりが苦手」「こだわりがある」といった特性のある障害です。ASDには、この本の中で使われる「自閉症」のほか、かつて「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」と呼ばれていた子どもたちのことも含みます。


 ASDの症状は幼少時から認められ、多くは3歳までに診断が可能です。しかし、知的障害を伴わず、言葉の発達が良好である場合は、小学校入学後や成人になって初めて診断を受けることもあります。


 たっちゃんはその様子から、知的障害を併せ持っているようです。ASDは、知的な遅れを伴わない方も含めると、100人に1人程度いるといわれます。


 絵本の後半で、ASDは親の育て方によるものではなく、脳機能の障害であるということに焦点を当てています。今日、発達障害への社会の認知が進んでいますが、ASDを含む発達障害は、生まれつきの脳機能障害であり、親のしつけや愛情不足など育て方が原因ではないということも、しっかり伝えていきたいものです。


 作品はASDの特性と原因の紹介に重点が置かれ、ぼくがたっちゃんとどのように関わったり、遊んだりしたらいいのかということは描かれていません。読み聞かせではASDのある子も、子どもによってさまざまな特異(ユニーク)で得意なことがあること、絵カードや手順表など視覚的な手がかりがあると、みんなと一緒の活動や遊びができることなどにも、触れてもらえるとうれしいです。

 

みずうち・とよかず 岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。