
さっちゃんは、お母さんに赤ちゃんが産まれることを聞き、幼稚園のままごと遊びで張り切ってお母さん役に立候補します。でもクラスメートに「さっちゃん おかあさんには なれないよ! だって、てのないおかあさんなんて へんだもん」と言われてけんかになり、幼稚園を飛び出して家に帰ると、お母さんに息せき切って尋ねます。
「おかあさん、さちこのては どうして みんなと ちがうの? どうして みんなみたいに ゆびが ないの? どうしてなの?」

皆さんがさっちゃんのお母さんだったら、どう答えるでしょうか。
障害や病気のある子どもの母親は、健康に産んであげられなかったと、自責の念を持っています。さっちゃんのお母さんも、さまざまな苦悩や葛藤を抱えていたはず。ましてや、わが子に問われたら、さぞかしつらいでしょう。お母さんはさっちゃんを黙ってぎゅっと抱きしめ、手を優しく包み込みます。

「おかあさんのだいすきな さちこの かわいい かわいいて なんだから…。」
お母さんは涙ながらに受け止めつつ、指がない理由とこれからも生えてこないことを分かりやすく、正しく伝えます。優しいまなざしのお父さんを含めた家族の愛がさっちゃんの肯定的な自己理解を育み、いきいきと自分らしくあることを支えています。
もし皆さんが幼稚園や保育所の先生で、園児にさっちゃんの手について聞かれたら、どう答えますか?
最近は、障害のある子もない子も一緒に保育を受けることが一般的です。生まれつき手や足がない子、歩けずバギーに乗っている子などは見た目が違うため、周りの子が「なんで指がないの?」のように素朴で無邪気な質問をしてくるものです。
そんなときはこの絵本を思い返してください。体に障害があっても、支援やお助けグッズがあれば、たいていのことはできます。むしろ、「手足がないからできない」といった社会の側にある心のバリアーを取り除くチャンス。すぐに理解できなくても、きっといつか、子どもたちの想像力を高めてくれるでしょう。
さっちゃんと同じ障害のある子や当事者でもある制作者たちの思いを記した資料も別添されています。図書館では外されるので、ぜひ購入して、絵本とともに大切にしてほしいです。