「ちょっとだけ」の書影(瀧村有子・作、鈴木永子・絵、福音館書店)


 「なっちゃんの おうちに あかちゃんが やってきました。なっちゃんは おねえちゃんになりました。」


 お出かけの時、ママと手をつなぎたくても、ママは赤ちゃんを抱っこしているのでつなげません。ママのスカートを「ちょっとだけ」つかんで我慢しました。


 パジャマに着替える時、これまではママにボタンを止めてもらっていたけど、ママは赤ちゃんを寝かせるのに精いっぱい。全部はできなかったけど、自分で「ちょっとだけ」止めることができました。


 公園では、ブランコをいつもママが押してくれましたが、今はお願いできません。自分で頑張ってこいでみたら「ちょっとだけ」ブランコを揺らすことができました。


 なっちゃんはママに甘えたい気持ちをこらえて、他にも、これまでママにやってもらっていたことに、自分1人でチャレンジしていきます。

「ちょっとだけ」の一場面(瀧村有子・作、鈴木永子・絵、福音館書店)


 おねえちゃんになったからと1人で頑張るなっちゃんも、やがて疲れて眠たくなり、とうとうママに「ちょっとだけ」抱っこしてほしいとお願いします。甘えたい気持ちのなっちゃんに、ママはどのように応じるのでしょう?


 ママに甘えたいけど、おねえちゃんになろうと頑張ろうともする、そんななっちゃんの心の葛藤と、「ちょっとだけ」を積み重ねて確実に成長していく姿が、ママの深い愛情と共に描かれます。


 私が尊敬する、ある小児科の先生は、病気で来院した子と保護者だけでなく、そのきょうだい児に対しても、必ず温かいまなざしとともに「こんにちは」「バイバーイ」と声をかけておられます。この絵本は、その先生に紹介してもらったものです。障害児の心理臨床を研究する私に先生は、赤ちゃんもママも、そしてなっちゃんも、家族みんなが大事な主役なんだよと、教えてくださったのだと思っています。


 私はこの絵本を読んで、最初は切なくキュンと胸が締め付けられ、最後にはほっこり幸せな気持ちになりました。


 世界中の「なっちゃん」が、「いっぱい」抱きしめてもらえますように。

 

  みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。