
「でも、やっぱり よめない。どうしても よめない。字が くねくねした かたちにしかみえないんだもの。」
「さんすうは もっときらい。すうじは いまにも たおれそうな、ぐらぐらしたレンガの山にしか みえない。」
「ぜったいに わたしは あたまが わるい。みんなと ちがう。」
小学生のトリシャは、読んだり計算したりする学校生活に苦戦しています。それだけでなく、心無いクラスメートにいじめられています。
でも5年生の時に担任となったフォルカー先生は、トリシャの描く絵の特異な才能をしっかり褒めてくれただけでなく、文字を読むことの難しさにもいろいろな方法で指導してくれました。その結果、トリシャは読むことが上手になり、本を読むのも好きなったのです!

トリシャのような読み書きに難しさのある学習症・ディスレクシアの子どもは、日本には8%程度いるとされています。この子たちは、決して怠けているのではなく、脳の機能障害に基づく発達障害のある子なのです。つまり、みんなと同じ方法で頑張れというだけでは難しく、学びのスタートラインにも立てないのです。従って、個に応じた指導や支援に加えて、場面や目的に応じたタブレット端末の使用など、読み書きの軽減負担のための合理的配慮も大切です。
実際、この絵本で書かれている、フォルカー先生が行ったトリシャの読むことの難しさに対する指導法は学習症、特にディスレクシアの子どもの指導として有効なものです。
巻末には、長年わが国のLD(学習症)の研究と実践をけん引してこられた、元日本LD学会会長の上野一彦先生の解説があります。その中で、「ひとは、ひとりひとりみんなちがいます。こうしたちがいを、わたしたちは個性と呼びます。ちがいを受けとめ、ちがいを活かす。いろいろなちがいとつきあえることは、相手にとっても、自分にとっても、とても大切なことです。」と書かれています。
実はトリシャの物語は、作者のパトリシア・ポラッコさん自身の体験談なのだそう。
トリシャのように、周りからは困りが見えにくく、なかなか理解されにくい発達障害のある子が、フォルカー先生のような特別支援教育に明るい先生に出会え、もっと学校生活や社会生活の中で、特異(ユニーク)を認められ、得意を伸ばしていけるよう、私も、学校の先生を目指す学生たちの教育を頑張ろうと思うのです。