映画「ルート29」のリーフレット
映画「ルート29」のリーフレット

 沖縄本島を縦断する国道58号は南国のシンボルの一つ。以前訪ねた那覇市の土産物店で、58号の国道マークがプリントされたTシャツやステッカーを見つけた。沖縄出身の4人組ロックバンド「かりゆし58」の名前も国道58号が由来という。地元の人たちに愛されている証しと言える▼こちらも愛着を深めるきっかけになるのだろうか。鳥取市と兵庫県姫路市を結ぶ国道29号を舞台にした映画『ルート29』が8日から全国公開される▼人と交わろうとしない寡黙な清掃作業員の女性が風変わりな少女と出会い、姫路から鳥取まで一本道の国道を2人でひたすら進むロードムービー。昨夏に現地で撮影が行われた。主演の綾瀬はるかさんの感情を抑えた演技とともに、外国の絵本のような映像美も魅力の一つらしい▼原作は、国道29号が通る鳥取県若桜町出身の詩人・中尾太一さんの詩集『ルート29、解放』。とはいえ、詩集には2人の物語は書かれていないという。2年前に公開された『こちらあみ子』などを手がけた森井勇佑監督が詩集から想像力を膨らませ、どう映像化したのか興味深い▼中尾さんが「想像力と記憶の原点」と話す国道29号は、かつて鳥取で勤務した際に何度も利用した。だが取材先への道中という意識しかなく、沿線の自然美を楽しむ余裕はなかった。この映画が29号に限らず、普段利用する道路の魅力を見つめ直す契機になればいい。(健)