並外れた力量を持ち所定の枠に収まらない人は批判されやすい。30年前に日本球界を去り米大リーグのマウンドに立った野茂英雄さん、日米で野球殿堂入りしたイチローさんも結果でうるさい外野を黙らせた。
20世紀を代表する指揮者カラヤンは端麗な音楽で聴衆を魅了する一方、レコードを大量に販売。自家用機やスポーツカーを乗り回す姿は指揮者像と懸け離れ、音楽は大衆迎合、空虚と批判された。
松江市の島根県立美術館で作品展が開催中の日本画家・平山郁夫さん(1930~2009年)も枠を超えていた。シルクロードを主要テーマに描く傍ら、旧タリバン政権に破壊されたアフガニスタンのバーミヤン遺跡など文化遺産の保護に尽力。絵画や展覧会での収入に加え、政治力を生かして集めた寄付で賄う手法に芸術家として批判もあったが、文化を守りたいと気にしなかったという。
平山さんの活動の意義を実感できなかったが、10年前にアフガニスタン人留学生と話して尊さを知った。破壊されたバーミヤン遺跡に対する日本人の努力に深く感謝していた。
芸術や文化はスポーツより真価を測るのが難しい。カラヤンの音楽は厳密には作曲家が残した楽譜の読解が必要で、平山さんの場合も絵を見て感じるほかない。作品展では収集したシルクロードの遺宝も並ぶ。いにしえの精巧な造形物には、守りたいと思った人の魂も宿るかのようである。(板)