このコラムを書くのに手放せない辞書は、時の権力者が自らのモットーを言い表す材料として使われることがある。代表格がナポレオンの「余の辞書に不可能の文字はない」。解釈は分かれるが、「私にできないことはない」といった、見方によっては不遜な意味で浸透している。
この言葉が現代で似合いそうなのが、8年ぶりの就任式を終えたトランプ米大統領だろう。「米国の黄金時代が今、始まる。一日一日、私は極めて単純に米国第一を考える」と自信満々に演説。トランプ節は健在だ。
気になるのが、大統領選の期間中に口にしていた「私の辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」という言葉。「美しい」の定義は不明だが、まずはカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課すことを検討しているとし「2月1日にやるつもりだ」と宣言した。
よそ事と無視するわけにはいかない。カナダとメキシコには、日本の自動車メーカーが米国向けの生産拠点を設けており、影響は必至だ。これまで日本を名指しした言及はないとはいえ、自動車への関税上乗せや農業分野の市場開放を求めてこないかなど、国内では警戒感が広がる。
石破茂首相は2月前半にもトランプ氏と会談し、日米同盟の深化に注力したい意向だが、関税引き上げを切り札にどんな要求を突き付けてくるのかは見通せない。首相の辞書に「関税対策」の妙案はあるのだろうか。(健)