トーベ・ヤンソンの童話『ムーミン』に登場するスナフキンはいつもふらっとやって来て、どこかへ去って行く。荷物はリュックサックのみ。「僕は自分の目で見たものしか信じない」との言葉は誰にも染まらず思索を好む旅人らしい。
スナフキンも顔をしかめているだろう。消費者心理をたきつけ、見えない商品を売りつける悪徳業者が後を絶たない。顧客に販売した商品を預かり、運用益などからの配当金を約束する販売預託商法である。基本的に現物が手元にないため、事業実体がない企業であっても配当が続く限り被害に気付かない。
金地金を買わせる豊田商事事件、和牛オーナーを募る安愚楽(あぐら)牧場事件…。被害が繰り返され、預託商法は原則違法となったが、アプリ入りUSBメモリーを売りつける詐欺が問題化している。あわよくば楽して稼ぎたいのが人のさが。心の隙間に付け入る業者に対抗するには知識を身に付けるしかない。
投資の大原則として「元本保証・確定利回り」をうたう怪しい商品に手を出さない。高配当が続く状況はあり得ないと疑う。業者がきちんとした登録を受けているかの確認も必要だ。
売る側と買う側は情報量と交渉力で圧倒的な差がある。甘言をうのみにせず、ぶれない物差しを持ちたい。スナフキンのように欲を捨てては生きられないが、目に見えるものしか信じない徹底した現実主義は今を生き抜くすべとなる。(玉)