『どうすればよかったか?』は現在公開中の映画のタイトルだ。統合失調症の症状が出ている姉を家に引きこもらせた両親を撮り続けた藤野知明監督(58)の壮絶な家族の記録。話題作とあって、鳥取県内での上映会はほぼ満席だった。
監督の8歳上の姉は医学生だった1983年、突然あらぬことを叫びだす。共に医師で研究者の両親は「全く問題ない、そう振る舞っているだけ」と取り合わない。納得できず、就職で実家を出る監督が診断時の資料になると思ったのが、撮影のきっかけだ。
パパ、ママ、まこちゃん、知ちゃんと呼び合い、一見して裕福な家庭でわめき散らす姉の姿や玄関が鎖と南京錠で閉ざされた映像からは監督の困惑と怒りが伝わる。姉の治療が始まったのが、発症から25年後の2008年。認知症の症状が出た母と姉を前に、父が折れた。
作中、姉が発症した理由を究明する映画でも、病気を説明する作品でもないとの注釈が入る。「どう両親を説得すべきだったか」が一番知りたいことだという監督。無理にでも病院へ連れて行けばよかったのに、と簡単に言えまい。時に、法律よりも堅固な不文律が家庭には生まれ、まじないのように解くのも説くのも難しいのだろう。
治療後に劇的に改善した姉は、間もなくステージ4の肺がんが見つかり、21年に62歳で亡くなった。晩年の姉まこちゃんの穏やかな表情が胸に刺さる一作だった。(衣)