水田で草を集める男性。農作業にはストレスホルモンを抑制する効果があるという=2024年7月、島根県奥出雲町
水田で草を集める男性。農作業にはストレスホルモンを抑制する効果があるという=2024年7月、島根県奥出雲町

 みそ用の大豆を自家栽培している。今年は酷暑と少雨で生育はいまひとつ。肥料や農薬を使わない方法を採っており、「頑張れ」と人一倍声がけして成長を見守っている。

 農作業の過程は畝作りに種まき、土寄せ、草刈り、収穫、脱穀とさまざまあり得意不得意、好き嫌いがある。それで言えば草刈りが一番好きだ。この時季は強烈な日差しを避け、夕方5時を回ってから鎌一つを持って畑へ。疲れはしてもパソコンを前にする仕事とは違い、草と土に触れ本能的に体が喜んでいるのが分かる。

 この心地よさは個人的な感覚というわけではなさそうだ。草花に心が癒やされストレスが軽減することは経験則的に知られ、「園芸療法」として実用化されている。

 それを唾液の成分調査で立証したのが順天堂大大学院のチーム。農作業でストレスホルモンであるコルチゾールやアミラーゼが抑制され、幸せホルモンのオキシトシンが増えることを確認。「アグリヒーリング(農業での癒やし)」の名で、さらなる研究を進めているという。

 高齢化と後継者不在で個人の畑がアスファルトに変わる例をよく見聞きする。自給の喜びと何より心身の健康が得られるのであれば、細々とでも誰かが受け継ぐのが得策ではないか。現代社会で生きづらさを抱える人が多いのは、農から離れたことが遠因かもしれない。畑が身近にあるありがたさをかみしめ、草刈りにいそしむ。(衣)