菅義偉首相の退陣意向表明から一夜明けた4日、次期衆院選に立候補を予定する島根県内の各陣営は、支持拡大へと活発に動いた。首相交代に向けて今後の政局が不透明さを増す中で、それぞれが戦略の見直しを迫られそうだ。 (取材班)
松江市内で時局講演会の弁士として、160人を前にマイクを握った立憲民主党の枝野幸男代表は「菅首相の辞任はやはりという感じだが、このタイミングはひどすぎる」と、政権の混乱ぶりを批判。立民から島根1区に立候補予定の亀井亜紀子衆院議員(比例中国)、2区の新人山本誉氏も登壇する中、自民党との対決姿勢を鮮明にした。
ただ、支持率が低迷する菅政権を前提にした戦略は、退陣表明で崩れた格好だ。「新たな顔」を選ぶ17日告示の自民党総裁選に注目が集まれば存在感が薄れる。立民島根県連の角智子幹事長は「(自民の)イメージがどう変わっていくか分からない」と警戒する。
新人の向瀬慎一氏を島根2区に擁立する共産党県委員会幹部らは4日、退陣表明を受けて、街頭演説などでの訴えをどう変更するか協議に入った。
対応が迫られるのは、自民党も同じだ。
細田博之衆院議員(島根1区)は安来市内の国政報告会で「新しい総理総裁を選び、内閣改造をして頑張っていく」と意気込んだ。
最大派閥・細田派の領袖(りょうしゅう)として1年前の総裁選は菅首相支持を表明し政権誕生の一翼を担ったが、今回は事情が異なる。派閥の論理が前面に出て、内向きに新首相が決まれば、党員や国民の反発を招きかねない。
多くの候補の名前が取り沙汰されており、細田氏は自主投票の可能性も示唆。選挙対策本部長として島根1区の選挙を支える細田重雄県議は「悩んでいる」と思いを代弁した。
島根2区の選対は雲南、出雲、大田各市でブロック会議を開き、新人の高見康裕氏の支持を訴えた。
公募で高見氏以外の候補を推した出雲市内の支部の不満はくすぶる。出雲会場は3会場の中で最も出席者が少なかった上、終了後、地域支部役員が選対幹部に、保守分裂した2019年知事選以降の対立の構図を引きずっていると、苦言を呈する一幕もあった。選対本部長の森山健一県議は「みんなが『分かりました、やりましょう』という空気ではない」と漏らす。
首相退陣により政治日程がずれる公算が大きくなり、衆院選の準備にわずかな余裕が生まれたが、一丸となって戦えるかどうかは、依然として見通せない。
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衆院選鳥取1区、2区の立候補予定者の各陣営は4日、1区の現職、石破茂自民党元幹事長が党総裁選に立候補するかどうか、動向に関心を寄せた。
石破氏の留守を預かる陣営は、本人は現時点での対応を「白紙」と答えるものの、総裁選に備え、臨時電話の確保の可否を確認。地元事務所には鳥取県初の総理総裁の誕生を期待し、出馬を求める声がやまない。
2020年9月の前回総裁選での惨敗に伴い、求心力が低下しただけに、浜崎晋一東部選対本部長は「衆院選に向けての組織固めにプラスの環境だ」と強調。支持拡大を目指し、陣営関係者と連絡を取り合った。
2区の現職で、当選5回の「入閣待機組」とされる石破派の赤沢亮正氏にとってもムードが盛り上がるとして、総裁選出馬の有無は焦点。野坂道明米子市選対本部長らは動向を見守りつつ、週明けに2区の情勢分析をする準備に入った。
対する野党は、2区に出馬する立憲民主党の元職湯原俊二氏が枝野幸男党代表とオンライン演説会を開き、1区に共産党が擁立する新人岡田正和氏は倉吉市内3カ所で街頭演説。
湯原氏を支える福間裕隆選対本部長、岡田氏を立てる伊藤幾子選対本部長は「石破氏が総裁選出馬となれば、県民は盛り上がる」と口をそろえ、情勢に与える影響を懸念した。(取材班)
<鳥取1区>
石破 茂64 元党幹事長 自現(11)
岡田 正和39 党県常任委員 共新
<鳥取2区>
赤沢 亮正60 内閣府副大臣 自現(5)
湯原 俊二58 党県連副代表 立元(1)
<島根1区>
細田 博之77 元官房長官 自現(10)
亀井亜紀子56 党副幹事長 立現(1)
<島根2区>
高見 康裕40 元島根県議 自新
山本 誉64 元島根県議 立新
向瀬 慎一50 党地区委員長 共新
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表の見方 名前(敬称略)に続き、年齢、肩書、所属政党、現職、元職、新人の別。政党の自は自民、立は立憲民主、共は共産。丸囲み数字は当選回数。