「ウィーン」という回転音がするのみでパソコンのCDドライブは動かない。写真店でCDに焼き付けたはずの多数の画像データが読み出せない。苦肉の策として復旧ソフトを起動したが、またドライブがうなりだし、3枚の写真しか救出できなかった。CDには米中枢同時テロから3カ月後にニューヨークを訪れた際、撮影した写真50枚余りが記録されている▼かつてない怒りと悲しみに包まれた米国をデジタルカメラで撮影した。遠い記憶ではないが、20年がたちCDの被膜が変化したようだ。不幸中の幸いで当時、プリントも依頼しており、写真を収めたアルバムも見つかった。仕事で無数の写真を撮影してきた中でも、どうしても失いたくない記録の一つだ▼スマートフォンが全盛となり、撮影すると写真が自動的に業者のサーバーへ転送される「クラウド」というサービスが普及しつつある。とはいえ、高齢者を中心に、クラウドの登場以前の画像データをプリントせずに、パソコンやスマホの中に保存したままの人も多いのではないか。経年や故障で、あっという間にデータは消える恐れがある▼菅義偉首相提唱のデジタル庁が発足した。電子データを各省庁で統一して促進し、公共サービスを効率化するのが狙いのようだ▼大いに推進してほしいが、アナログな手法の全廃は危険な気がする。霞が関や永田町はよく記録や記憶が消えるから。(釜)