太陽光パネルを屋根にした渡部さん所有の農園。背後の住宅を含め190枚のパネルが広がる=松江市八束町波入
太陽光パネルを屋根にした渡部さん所有の農園。背後の住宅を含め190枚のパネルが広がる=松江市八束町波入

 衆院が解散された14日午後、ごみ焼却場に使われる大型の熱交換器などを製造する曽田鉄工(松江市東出雲町錦浜)で、曽田直秀社長(54)が「今は原発に頼るしかない」と言い切った。

 社員11人の町工場。鉄板から部品を切り出すプラズマ加工機や溶接作業には電気が欠かせない。だが、国内では燃料費が割高な火力発電への依存が続き、5年前に8万円だった月々の電気代は1・5倍の12万円に増えた。

 火力の燃料として利用される石炭や液化天然ガス(LNG)は世界的に需要が増え、コスト高とともに供給不足への懸念が強い。曽田社長は「原発であれば安定的に電力が供給され続けるはずだ」と語る。

▼住民不安根強く

 中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の再稼働の可否判断に向けた議論が地元で始まった。問われるのは、原発が暮らしや地域社会に欠かせない存在なのかどうかだ。

 政府は22日に閣議決定した政策指針「エネルギー基本計画」で、原発を「持続的に活用する」と明記。低コストで電力の安定供給が可能だとして、2030年度の電源比率を20~22%とする目標も据え置いた。

 だが、19年度の実績は6%。目標を実現するには30基程度の原発を再稼働させる必要があるが、安全対策の強化に加え、地元住民の不安が根強く、11年3月の東京電力福島第1原発事故後に再稼働できたのは10基だけだ。

 対して、36~38%の目標を設定した再生可能エネルギーの実績は原子力の3倍の18%。気象条件によって発電量が左右され、送電網の整備など課題は多いが、菅義偉前首相が温室効果ガス排出量を50年までに実質ゼロにすると宣言したことで追い風が吹く。

▼避難の方法不明

 中海に浮かぶ大根島(松江市八束町)の中心部にずらりと並んだ約180枚の太陽光パネル。渡部冬緒さん(72)と妻の照子さん(71)が正月の縁起物と親しまれているセンリョウの栽培を始めるのに合わせ、14年に国の固定価格買取制度を活用して自宅と自家農園に設置した。

 太陽光パネルがつくる日陰はセンリョウの栽培に適した環境を生み出し、月平均で約20万円分を売電する「一石二鳥」の生活が実現。電気料金の値上げにも左右されにくくなった。

 再エネと共に生きる冬緒さんが、約17キロ北西にある島根原発に向けるまなざしは厳しい。理由は避難対策の不十分さだ。

 冬緒さんは8年前、神経の病気の脊髄性小脳変性症と診断された。今もろれつが回らず、歩行しにくく、外出先では車いすを使う。政府が了承した事故時の避難計画によれば100キロ離れた岡山県総社市に逃げることになるが、訓練への参加案内は1度もない。有事の際、いつ、どうやって移動するのか分からず、不安は募る。

 「身体障害者は取り残され、早く死んでしまえと言われている気がする」

 島根原発から30キロ圏内に暮らす「要支援者」は全国最多の約5万2千人に上る。国策として原発推進の旗を振るならば、避難対策の議論から逃げず、住民の安心を守る手立てを尽くす責任がある。 (政経部・原田准吏)