島根県雲南市に主力工場がある大手厨房(ちゅうぼう)機器メーカー、ホシザキ(愛知県豊明市)の坂本精志会長(84)が私財を投じ、若手の新規就農者を資金支援する、と聞いて本人とお会いした。「農業は儲(もう)からない、というイメージを何とかしなければ。そのために稼げる営農モデルを実践する若手生産者を育てたい」。飄々(ひょうひょう)としながらも、言葉には力を感じた▼坂本会長の発案で立ち上がったのが「儲かる農業を考える会」。坂本氏と親交のある速水雄一・元雲南市長や同市内の農業法人代表、島根大教授、農業コンサルタントらをメンバーとし、島根県東部で農業を始めようとする40歳以下の人たちの中から、資金支援の対象者を審査、選定する▼「行政の支援などで新規就農しても採算が取れないため、3年ぐらいでやめてしまう人が多い。何とか独り立ちするまでオカネで応援するが、おんぶに抱っこはしない」▼お役所が資金を出して就農を促すメニューは多くあるが、個人マネーを活用するのは珍しい。資金の上限は特に設けず、返済不要の奨学金を就農の志に投じる、と例えれば分かりやすい▼支援組織の名称は当初「新しい農業を考える会」を考えていたが、どこかきれい事。聞こえはいやらしくても、そのものずばりの「儲かる…」に変えたという。製造業のベテラン経営者らしく農業にも経営感覚を求める。種銭を力に農業の起業家、出(い)でよ。(前)