年とともに涙腺が緩くなる。1月にも映画館で泣いた。米国を舞台に、耳が聞こえない家族の中で唯一聞こえる少女の巣立ちを描いた『コーダ あいのうた』に。日本作品の候補入りで注目された先日の米アカデミー賞での作品賞受賞にもうなずいた▼作品中、音楽の道を志す主人公が歌い、涙を誘う歌が、日本でも有名な『青春の光と影』だ。カナダの歌手ジョニ・ミッチェルが50年以上前に作った。題を直訳すると「今は両面」となるこの歌は過去に何度も聴いてきたが、字幕を追いながら、初めて歌詞の意味を知った▼雲にアイスクリームのお城を見てきた。今は太陽をさえぎるだけのもの。雲を上と下の両面から見てきた。それは雲の幻だったと思う。私は雲のことを何も知らない。同じように人生も両面があり、人生のことは分からない-。そんなことを歌う▼この春、巣立った若者たちが社会人の仲間入りをした。山陰の地で働くことや、勤務先が、望み通りの人もいればそうでない人もいるだろう。この先も「光と影」を見るかもしれない▼人生とは-などと語れるほどの経験もないが、暗闇でしか見えぬものがあると誰かが言っていた。30年余りになる仕事を振り返ると、置かれた場所で10年くらいもがいているうちに、咲くとまではいかなくても、何かが見えてきた実感はある。ともあれ、若さはまぶしくもあり、うらやましくもある。(輔)