4月24日、毎月末恒例の「サンデーマーケット」が出雲市中心部にある芝生の広場で開かれた。5年目を迎えた日曜市の名は「CiBO(チーボ)」。イタリア語で「食べ物」を意味し、この日は生鮮野菜、海産物、花などが約30張りのテントに並んだ。
広場は市役所(出雲市今市町)の隣。市内の若手農業経営者らが地元食材の魅力を市民らに直接伝える場として始めた。新型コロナウイルス禍の中でも楽しみに待つ人たちがいる。
生バンドの屋外演奏があり、リズムに合わせて自然と体が揺れる。子どもたちが走り回ったり、寝転んだりしている。神奈川県からUターンした近くの公務員中里有香さん(38)が、1歳7カ月の長男を遊ばせながら、かみしめるように言った。「街自体が楽しくてわくわくする。帰ってきて良かった」
路地奥の人気店
広場から徒歩5分。JR出雲市駅(同市駅北町)の周辺に六つある市の中心商店街でも「わくわく」を求め、訪れる人がいる。
かつて週末の土曜夜市はすれ違うのも難しいほどの人出があり、演歌歌手の北島三郎さんらを呼んだ招待売り出しが人を集めた時代があった。相次いだ大型商業施設などで、全てが変わった。
6商店街の一つ、中町商店街はピーク時に70あった店舗数が30程度になり、全天候型アーケードが、静かな影を落とした。隣の本町商店街も70店から20店程度に減少。広い駐車場を備える大型店へ人が流れ、「空洞化」が叫ばれて久しい。
その流れが、変わるかもしれない。期待させるのが空き物件への「出店ラッシュ」だ。
倉庫を丸ごと改修し、2019年3月にオープンした喫茶店「holo(ホロ)」。夫婦で営む隅田三穂子さん(41)が「古いものを生かすという、やりたいことにこだわった」という夢の城だ。路地奥の目立たない立地ながら幅広い世代が集う。
ほかにも、多様なジャンルの古本などを扱う本屋、甘酒ドリンクなどの「発酵メニュー」を売りとするカフェなど、こだわりを感じさせる店が、商店街の空き家、空き店舗に入った。
若い世代が多いというオーナーの特徴を、物件を扱う不動産のたくみ(出雲市高岡町)の宮廻健吾さん(39)は「空き家に抵抗がなく、交流サイト(SNS)で発信できる強みもある」と説明。「老舗から新店舗まで、多様な感性が集まる街になっている」と再生の息吹を感じ取る。
線引き制度なし
市の中心部や、かつては「街の顔」だった商店街から消えた活気が、新しい時代の価値観とともに形を変えて芽吹く。そんな明るいムードが、今はある。
もともと開けた土地と豊かな水がある県内最大の穀倉地帯・出雲平野の中核地域。かつての農地は、郊外や国道9号、バイパス沿いで次々と宅地化、商業地化され、「人の動き」を受け止めてきた。
土地開発を「促す区域」と「抑制する区域」を分ける線引き制度がなく、土地活用の動きが、良くも悪くも、中心部だけでなく郊外へと広がりやすい構造がある。このことは地代の安さとなって現れ、1月時点の地価公示で、全用途の価格は1平方メートル当たり8490~9万7200円。松江市の1万1200~16万9千円と比べた安さが、結果としてスーパーやドラッグストアなどの出店を後押ししてきた。
大規模小売店舗立地法に基づく、13~21年度の大型店(店舗面積1千平方メートル超)の新設届け出が出雲市は18件で、県全体(54件)の3割を超える。22年1月には大手家電量販店ケーズデンキが開店。市内2店舗目のスーパーを建設中のマックスバリュ西日本(広島市)の広報担当者は「出雲市は他の地域に比べ新しい家が増え、人口も伸びている」と理由を挙げる。
中心商店街と郊外型の大型店が繰り広げてきたにぎわいの綱引き。目指す人口維持の先に、共存の形をつくることができるか。新しい街の顔をどう描くか。積年の課題を乗り越え、街のにぎわい再生へ、希望の芽を伸ばしたい。 (松本直也)
「地方都市のミライ」の第1部は23日から掲載します。