行ったことがないからという家人のリクエストに応え、大型連休に倉吉市へ足を運んだ。白壁土蔵群を歩こうと計画したが、高速道路を降り、市街地に向かう橋を渡ると目に入る、ひときわ大きな建物に引かれるという▼米子総局に勤務した10年前、取材で何度か訪れた複合施設「倉吉未来中心」だ。当時は仕事のことで頭がいっぱいだったのか、全く目に留まらなかったが、前衛的な外観は確かに目立つ。中に入ってさらに驚いた。高さ42メートルのガラス張りのアトリウムを備え、何本もの木柱が吹き抜けの空間を支える。その骨格の迫力と芸術性は息をのむほどだ▼アルゼンチン出身で米国の建築家シーザー・ペリ氏の設計。3年前に92歳で死去したペリ氏は、高さ452メートルのペトロナス・ツインタワー(マレーシア)や300メートルのあべのハルカス(大阪)を手がけた世界的な建築家。自然光が包む空間は、鉄道駅であればなんとおしゃれなことかと空想した▼ペリ氏は人々が出会い、新しい交流やアイデアが生まれる空間を提案した、とある取材に答えていた。ホールや記念館を備える施設は、鳥取県中部地震での被災、新型コロナウイルス禍など曲折はあれど、にぎわいを取り戻しつつあり、設計者の思いは実っている▼しかし、これだけのデザイン建築が目に入らなかったとは、どれだけ視野が狭かったか。当時の自分に伝えたい。見上げてごらん、と。(衣)