七夕(たなばた)の「おりひめ星」として知られるベガは、こと座(ざ)の星です。ですから、こと座は夏に見やすい星座だと想像(そうぞう)できます。実際(じっさい)、夏になると、頭の真上あたりに見えます。
日本では、こと座は夏を中心に長い期間見ることができ、今ごろの時季でもすでに夜空に出ています。夜のはじめごろ、北東の地平線の上に明るいベガが昇(のぼ)っていますから、空高くに見える真夏よりも、むしろ目に付きやすいかもしれません。
こと座は、ベガと、そのすぐ近くにある平行四辺形の星の並(なら)びで形作られる、どちらかというと小さな星座です。小型の竪琴(たてごと)を表したものといわれ、平行四辺形が弦(げん)を張(は)る部分に当たると思われます。
神話によれば、オルフェウスという青年が竪琴を奏(かな)でると、神々や動物、植物までも聴(き)きほれたといいます。そして、彼(かれ)が亡(な)くなった後、神様がその竪琴を天に上げて星座にしたと伝えられています。
ちなみに、こと座の平行四辺形は、島根県邑南(おおなん)町では、「まな板星」や「菜(な)切(き)り星」と呼(よ)ばれていたそうです。なるほど、まな板や菜切り包丁(ぼうちょう)の四角い形に見えますね。
この平行四辺形を作る四つの星は、あまり明るくありませんので、空が完全に暗くなった午後9時ごろに見るのがよいでしょう。今後6月初めごろまでは月明かりにもじゃまされませんから、見つけやすいはずです。
◆島根県立三瓶(さんべ)自然館サヒメル天文事業室長・竹内幹蔵(みきまさ)