虫の大合唱の舞台となるわが家の庭=松江市内
虫の大合唱の舞台となるわが家の庭=松江市内
小泉八雲が愛読したとされる書物を紹介する小泉凡さん(手前)=松江市奥谷町、小泉八雲記念館
小泉八雲が愛読したとされる書物を紹介する小泉凡さん(手前)=松江市奥谷町、小泉八雲記念館
虫の大合唱の舞台となるわが家の庭=松江市内
小泉八雲が愛読したとされる書物を紹介する小泉凡さん(手前)=松江市奥谷町、小泉八雲記念館

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 この時季、明け方近くに目を覚ますと、クツワムシだろうか、虫の鳴き声を耳にする。雑草だらけの庭から、たぶんその向こうの林からも、網戸越しに聞こえてくる音は、大合唱や交響楽団と呼べるくらいの広がりと厚みがあり、「一体何匹いるのだろう」などと思いながら寝床で聞き入る▼面白いのは、始まりだ。1匹、2匹と音が増えるのではなく、一斉に鳴き始める(と思える)。まるで指揮者がいるかのよう。演奏開始の合図は気温か明るさか。40年前なら夏休みの研究の題材にしたかもしれないが、あれこれ想像しつつ二度寝をしては、夏が終わってしまう▼虫の鳴き声をめでる人種は珍しいという。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は「日本人が虫の声音を愛することは、子どものように幸福で、心優しい古代ギリシャ人に通ずる」と記した。小泉八雲記念館(松江市)で6月に始まった企画展「虫の詩(うた)」にある▼ハーンは「かそけきものの声音」を愛したというのが企画趣旨。かそけきものとは、かすかなもの、弱々しいもの。西洋人が目を向けることは少ない昆虫や小動物をめでたハーンの姿を通し、日本人の感性や価値観をも見つめ直す▼虫の声に耳を傾ける余裕などないのは先の参院選で当選した人たちか。任期が始まる26日を前に東奔西走していることだろう。社会にはさまざまな人の「かそけき声」がある。聞き逃さないでほしい。(輔)