木次線開業90周年記念として、16年ぶりに運行された特急「ちどり」(左)。右はトロッコ列車「奥出雲おろち号」=2006年10月、JR出雲坂根駅
木次線開業90周年記念として、16年ぶりに運行された特急「ちどり」(左)。右はトロッコ列車「奥出雲おろち号」=2006年10月、JR出雲坂根駅

 古書店で40年前の時刻表を買った。記載のある陰陽を結ぶ列車のうち、伯備線の特急「やくも」は現役ながら、広島を結んだ木次線の急行「ちどり」は32年前に姿を消した▼国土交通省の有識者検討会がまとめた地方鉄道再構築の提言では、JR線区の「輸送密度」(1日1キロ当たり平均乗者数)が平時で千人未満が対象。山陰両県は木次線を含む4路線7区間が該当する。今後、国が主導して地域協議会を設け、鉄道存続策やバス転換などの可否を検討し、最長でも3年以内に存廃の結論を出すという▼国鉄が民営化された1987年度の木次線の輸送密度は663人。当時から千人未満の状態が続く。全線開通から30周年の67年、本紙の前身「島根新聞」で掲載された木次線の連載記事は、赤字が続き、人口は減り、道路網の整備で自動車の活躍が次第に激しくなると指摘していた。55年前から課題は変わっていない▼都会で自家用車が不要なのは、日常的に鉄道を使う都市整備がなされているから。翻って木次線沿線では、路線を念頭にしたまちづくりの視点があっただろうか。連載記事の指摘通り、広島とを結ぶ道路網が充実し移動手段はマイカーとバスへ流れ、ちどりはもう走っていない▼地域協議会は国主導とはいえ、利用するのは沿線住民。結論付けた交通網を最大限に活用した、まちの将来像を描けなければ、同じ道を繰り返すことになる。(目)